この本読みました。
著者は長年マタギの取材を行っているカメラマン。
山関係、狩猟関係の現場を歩いている中で聞いた、不思議な話を集めた本だ。
純粋に不思議な話から、不気味なものまで色々とある。
ゾッとしたエピソードは、例えば以下のようなもの。
外は猛吹雪、雪洞を掘って朝を待っていると、風の音に混じって人の声が聞こえる。
よく耳を澄ませると、自分の名前を呼んでいるのだ。
もしかしたら、誰か知り合いが心配して自分を探しに来たんじゃないか。
そう思い、何も見えない吹雪の中に出て、大声で叫び返しながら、声の主を探した。
そして気づく。
これは絶対人間じゃない。行っては駄目だ。
雪洞に引き返し、じっと身を固めた。
どれくらい時間がたったか、吹雪はやみ、声も消えた。
外に出ると、月が冴えわたり、静かな夜の雪山が広がっていた。
あのまま外に出て探しに行っていたら、遭難していただろうと、その人は回想している。
この他にも、狐に騙された話とか、大蛇の話、謎の発光現象、謎の声など、盛り沢山で面白く、一気に読んでしまった。
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地図を見てみると、秋田のマタギが住む阿仁とか、本当に山の中にぽつんとあるんだね。
昔の夜は、さぞかし暗かったんだろう。
村の周りに延々と広がる暗闇と山の中には、何が潜んでいても不思議じゃないと思う。
あと、こういうお話が、人伝に広まる事の不思議を思った。
「不死身の白鹿」のエピソードが出てくる。
ある時、マタギたちが熊狩りに行くと、真っ白な鹿が現れた。
1人が引き金を引いた。
外す距離ではなかったのに、鹿は倒れなかった。
その人が続けて撃ち、他の人も撃ち、合計14発も撃ったが、鹿は微塵も動かず、マタギたちを見据えていた。
そして藪に消えたという。
こんな話を、新潟県の秋山郷の猟師の人が、先輩のマタギから聞いたのだそうだ。
一緒に猟に行き、夜明かしのために焚火をした岩穴の中で。
それを、本書の著者が猟師の方に取材して、本に記した。
それを自分が読んで知った。実際に体験したマタギたちから4世代目だ。
(この文章を読んでいるあなたで5世代だ)
時間と空間を超えて、不思議なお話が広がっていくのは、改めて考えると不思議だなと思った。