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『坊っちゃん』感想 キャラ立ちがすごい

 

面白かった。

痛快娯楽小説として楽しみました。

 

登場人物がみんな個性的。加えて坊っちゃんがやたらしっくりくるあだ名をつけるもんだから、キャラが立ちまくっている。校長の狸、教頭の赤シャツ、その腰ぎんちゃくのだいこ(略して野だ)、数学教師山嵐。アニメ化に向いてると思った。

 

そんな中、やっぱり主人公の坊っちゃんが好きになる。無鉄砲だけど、正直すぎるところがよい。笑ったのが山嵐の筋肉に感心するシーン。

 

 おれはあまり感心したから、君そのくらいの腕なら、赤シャツの五人や六人は一度に張り飛ばされるだろうと聞いたら、むろんさと言いながら、曲げた腕を伸ばしたり、縮ましたりすると、力瘤がぐるりぐるりと皮のなかで回転する。すこぶる愉快だ。山嵐の証明するところによると、かんじんよりを二本より合わせて、この力瘤の出るところへ巻きつけて、うんと腕を曲げると、ぷつりと切れるそうだ。かんじんよりなら、おれにもできそうだと言ったら、できるものか、できるならやってみろときた。切れないと外聞がわるいから、おれは見合わせた。

夏目漱石著 『坊っちゃん』 改版六十二版,角川書店,1989,p.103

 

最後の一文の正直さがおかしい。愛すべきキャラだ。

うらなり君の送別会のシーンも面白かった。酒席の後半で場がカオスになる感じがすごくわかる。その様子について、

 

 山嵐はばかに大きな声を出して、芸者、芸者と呼んで、おれが剣舞をやるから、三味線を弾けと号令を下した。芸者はあまりに乱暴な声なので、あっけにとられて返事もしない。山嵐はいっさいかまわず、ステッキを持って来て、踏破千山万水岳煙ふみやぶるせんざんばんがくのけむりとまん中へ出て一人で隠し芸を演じている。ところへ野だがすでに紀伊の国をすまして、かっぽれをすまして、たな達磨だるまさんをすまして丸裸の越中褌えっちゅうふんどし一つになって、棕櫚帚しゅろぼうき小脇こわきにかい込んで、日清にっしん談判破裂して……と座敷じゅう練りあるきだした。まるで気違いだ。

夏目漱石著 『坊っちゃん』 改版六十二版,角川書店,1989,p.111

 

「まるで気違いだ。」の冷静な一言に笑った。

坊っちゃんみたいに生きたいもんだ。飯はうまいし、夜も爆睡できるだろう。

 

***

 

おまけ ダーク一座について

この本の中に「ダークあやつり人形印象記」という文章が入っている。

萩原朔太郎が子供の頃に見た西洋人形劇の思い出について記したもので、幻想的な雰囲気が印象に残っていた。

 

人形劇を興行したイギリスの「ダーク一座」が、『坊っちゃん』の中でもちらっと触れられている。

 

こっちでは拳を打ってる。よっ、はっ、と夢中で両手を振るところは、ダーク一座の操人形あやつりにんぎょうよりよっぽどじょうずだ。

夏目漱石著 『坊っちゃん』 改版六十二版,角川書店,1989,p.110

 

当時はかなり有名だったんだね。ウェブサイトも見つけた。

見世物興行年表:ダーク一座

 

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