方程式 6x - 2 = 1 を解け。
という問題を考えてみる。- 2を移項して1 + 2を計算して3で、6で割ってx = 1/2 だなあ、と分かる。式を変形して x = ? の形にもっていく、というイメージを持っている。
この「方程式を解く」ということを、少し視点を変えて「集合と命題」の概念で考えてみた記事です。「集合と命題」の基本的なところは勉強済みの人向けです。
1.「方程式を解く」=部分集合の要素を求める
結論をざっくり示したのが図1。方程式を解くとは、図1の部分集合Pの要素”?”を求めることである。
1.1 全体集合Uについて
はじめに全体集合のUについて。高校数学で「xについての方程式を解け」と問われた場合、一般に実数の範囲でxを求める。このことに対応しているのが、全体集合Uが実数全体の集合となっていることだ。黒線の四角で示された全体集合Uの中には、1,2,3といった馴染み深い自然数から、円周率πや自然対数の底eといった無理数まで、ありとあらゆる実数が含まれている。
1.2 部分集合Pについて
次に全体集合Uの中の、部分集合P(赤い色の集合)について説明する。ここで重要になるのが、「等式を”条件”と見る」という視点の転換である。
まず「集合と命題」に出てくる用語 ”条件”が何を意味していたかを確認しよう。"条件"とは、「変数を含んだ式や文章で、変数の値が決まると真偽が決まるもの」のことである。例えば次の不等式。
x > 2
この不等式は、xが3であれば真、xが1であれば偽、というように、xの値によって真であったり偽であったりする。よって、不等式 x > 2 は x に関する条件である。
ここで、次の等式を見てほしい。
x = 2
この式は「xは2だよ」と言っているように見える。もちろんそれも正しい。
だが、xが2のときだけ真、2ではないとき偽となる、xに関する条件と見ることもできる。
今「方程式 6x - 2 = 1 を解け」という問題が与えられたとき、上の例と同様に
6x - 2 = 1
をxの条件と見てみる。そして、この条件を真とするxの集合を考える。それが図1中の部分集合Pだ。
1.3 まとめ
「方程式 6x - 2 = 1 を解け」という
問題は、次のように捉えることができる。
ありとあらゆる実数が含まれている全体集合Uがある。この中で、部分集合Pの要素(すなわち 条件 6x - 2 = 1 が真となる x)を求めること。それが、方程式 6x - 2 = 1 を実数の範囲で解くことを「集合と命題」の概念から捉えなおしたイメージである。
2.式の変形の意味
2.1 式の変形は、条件の変換
方程式を解こうとするとき、我々は式の変形を行う。これを「集合と命題」の概念から見るとどうなるか考えてみる。結論から述べると、「式の変形」は「条件の変換」である。
6x - 2 = 1 … (1)
を解くとき、まずは左辺の- 2 を移項して
6x = 3 …(2)
とするのが自然だろう。先ほど等式(1)をxの条件と見たが、同様に等式(2)もxの条件と見なそう。そして、
部分集合P1:条件(1) 6x - 2 = 1 が真となる xの集合
部分集合P2:条件(2) 6x = 3 が真となるxの集合
とする。部分集合P1とP2の関係を示したのが図2だ。
赤がP1、青がP2だ。便宜上少しだけずらしているが、P1とP2はぴったりと重なる。つまり、P1に含まれる要素とP2に含まれる要素はすべて同じになる。
含まれる要素は全く変えずに、ある条件を別の条件に変換する、これが式の変形を「集合と命題」の概念から捉えたイメージだ。
式の変形を続けると、次のようになる。
6x - 2 = 1 … (1)
6x = 3 …(2)
x = 1/2 …(3)
xは1/2、めでたく答えが分かった。ここで(3)についても条件として見て、
部分集合P3:条件 x = 1/2 が真となるxの集合
という部分集合を考える。P1、P2との関係はどうなるか。それが図3である。
部分集合P3を緑で表しているが、P3もP1、P2とぴったり重なり、含まれる要素はP1、P2とすべて同じになるのだ。
2.2 まとめ
方程式 6x - 2 = 1 を解く際に式を変形することは、「集合と命題」の視点からは次のようなイメージで捉えることができる。
部分集合P1: 条件 6x - 2 = 1 が真となる xの集合
に含まれる要素を求めたい。だけど難しい。そこで、含まれる要素はP1と全く同じだけど、条件がより分かりやすい、
部分集合P2:条件6x = 3 が真となるxの集合
を考える。うん、まだ難しい。よって、含まれる要素はP1、P2と全く同じだけど、もっと分かりやすい条件に変換し、その集合を考える。
部分集合P3:条件 x = 1/2 が真となるxの集合
条件がここまで簡単になれば、部分集合P3に含まれる要素は1/2だと一目瞭然に分かる。そして、この要素はそのまま部分集合P1の要素なのだから、方程式の解となる。
3.なぜ部分集合の要素は同じになるのか
次の3つの部分集合は、含まれる要素がすべて同じである。
部分集合P1:条件(1) 6x - 2 = 1 が真となる xの集合
部分集合P2:条件(2) 6x = 3 が真となるxの集合
部分集合P3:条件(3) x = 1/2 が真となるxの集合
なぜだろう。結論から述べると、3つの条件が互いに必要十分条件だからだ。ではなぜ必要十分条件となるのか。その理由は、等式の性質にある。以下詳しく説明する。
3.1 等式の性質
上の方程式を解く際に、
6x - 2 = 1 … (1)
を
6x = 3 …(2)
に変形した。これは、中学校で習う、次の等式の性質が使われている。
A = B ならば A + C = B + C が成り立つ …(ア)
今、(ア)のA に 6x -2、Bに1、Cに2を代入すると、
6x - 2 = 1 ならば 6x -2 + 2 = 1 + 2 が成り立つ…(イ)
となる。-2 + 2、1 + 2 を計算してしまうと、
6x - 2 = 1 ならば 6x = 3 が成り立つ…(イ´)
となる。
ここで再度重要になるのが、「等式を”条件”と見る」という視点の転換だ。(イ´)には6x - 2 = 1 と 6x = 3 という2つの等式が登場しているが、これを条件と見る。すると、
条件(1) 6x -2 = 1 ならば 条件(2) 6x = 3 が成り立つ…(ウ)
となる。
3.2 等式の性質から必要十分条件へ
(ウ)は「条件(1)ならば条件(2)」が成り立つ、すなわち 「命題:条件(1)
条件(1) 6x -2 = 1 ⇒ 条件(2) 6x = 3
が真であるとは、条件(1)を満たすものはすべて条件(2)を満たす、ということだ。
だから、
部分集合P1:条件(1) 6x - 2 = 1 が真となる xの集合
部分集合P2:条件(2) 6x = 3 が真となるxの集合
とすると、次のことが成り立つ。
P1 ⊂ P2
また、「A = B ならば A - C = B - C」という等式の性質から、矢印の前後を逆にした命題、
条件(2) 6x = 3 ⇒ 条件(1) 6x -2 = 1
も真になる。よって、次のことが成り立つ。
P2 ⊂ P1
以上より、
条件(1) 6x -2 = 1 ⇒ 条件(2) 6x = 3 が真
かつ
条件(2) 6x = 3 ⇒ 条件(1) 6x -2 = 1 が真
であるから、
条件(1) 6x -2 = 1 ⇔ 条件(2) 6x = 3
となる。すなわち条件(1)と条件(2)は互いに必要十分条件である。
そして、それぞれの条件を真にする要素の集合については、
P1 ⊂ P2 かつ P2 ⊂ P1
であるから、
P1 = P2
つまり、部分集合P1とP2の要素はすべて同じで、ぴったりと重なるのだ。
3.3 まとめ
部分集合P1:条件(1) 6x - 2 = 1 が真となる xの集合
部分集合P2:条件(2) 6x = 3 が真となるxの集合
この2つの部分集合の要素はなぜ全て同じなのか。それは次の理由による。
次の2つの等式について、
6x - 2 = 1 … (1)
6x = 3 …(2)
等式の性質から、次のことが言える。
(1)ならば(2) が成り立つ
(2)ならば(1) が成り立つ
このことは、等式(1)、(2)を条件と見ると、
「命題:条件(1)ならば条件(2)」 が真
「命題:条件(2)ならば条件(1)」 が真
ということである。よって、条件(1)と条件(2)は必要十分条件である。したがって、それぞれの条件を真とするxの集合である部分集合P1と部分集合P2は、P1=P2となる。
6x = 3 …(2) を更に変形した
x = 1/2 …(3)
部分集合P3:条件(3) x = 1/2 が真となるxの集合
についても、等式の性質
A = B ならば A × C = B × C が成り立つ
を用いれば、P1=P2=P3となることを同様に証明することができる。
参考にした本