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ゲーム「ICO(イコ)」の城が子宮を暗示しているという考察について、論拠を調べた。

 

0.結論

 ゲーム「ICO(イコ)」(2001 PS2、2011 PS3)について、舞台となる城の形がヒトの子宮を、ストーリーが受精プロセスを暗示してるという説が、ネット上に広まっている。本説を裏付ける発言が、ディレクター上田文人氏からあったのか、Webサイト・印刷資料を調べた。

 結果、2011年にエンターブレインより刊行された『ICO公式ガイドブック』p.140に該当する発言があることを確認した。記載は、ディレクター上田文人氏、プロデューサーの海道賢仁氏、プランナー細野淳一氏へのインタビュー中に存在し、以下のとおりである。

 

海道:あのマップ構成は、よくつじつまが合いましたね。

細野:あれはいくつかあるステージを上田さんがまとめて、あいてるところはあとで埋めてったんですよね。

上田:お城は最後に一気に組み上げたんですよね。最初の数ステージは決まってて、エンディングの展開も決まっていたけど、その間のステージのつながりはあとで一気に決めちゃったんです。

細野:あのお城、上から見るとね……。

上田:子宮の形なんですよ。

細野:新しい命の誕生を暗示しているんですよね。舟で脱出するところから生命が誕生する、という。

 

引用元 『ICO公式ガイドブック』 エンターブレイン,2011,p.140;強調はブログ筆者

 

 このため、城が子宮を暗示してることは確実である。しかし、ストーリーが受精プロセスを暗示していることについては、ブログ筆者は懐疑的である。 

 

1.はじめに

 GoogleICO 考察」と検索すると、トップに以下のWebサイトが表示される。 

 

【知らないほうがいい】ICO【考察】: 雫の軌跡-跡地-

 

 このサイト内では、「ICO」の城は子宮を、イコとヨルダの出会いは、受精のプロセスを暗示しているという考察がなされている(以下子宮説)。子宮説の根拠の1つとして、サイトの筆者”華音”さんは次のように述べている。

 

ICOのテーマは、

「⽣殖⾏為と受精、それによる⼈の誕⽣」である。

 

ディレクターの上⽥⽒は以前、「エロティックなものをいかにオブラートに包んで表現するか、それをイコのテーマにしました」と⾔っていた。

 

引用元 『雫の軌跡-跡地-』,

https://one-drop.at.webry.info/200904/article_22.html

 

 この上田氏の発言について、いつ、どこでなされたものなのか記載されていない。この発言(以下、オブラート発言aと呼ぶ)の裏をとり、子宮説の妥当性を検証したいと考えたことが、今回調べたきっかけである。

 

2.子宮説の参照関係

 子宮説の参照関係について調べた結果をまとめると、図1のようになる。

 

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図1 子宮説の参照関係

 

URL
(1)https://web.archive.org/web/20041026021041/http://www.geocities.jp/daruyo2000/11.htm
(2)https://game10.5ch.net/test/read.cgi/famicom/1130844266/
(3)https://zoradesuyo.exblog.jp/3841664/
(4)https://one-drop.at.webry.info/200904/article_22.html
(5)http://uewomuitearuku.blog.shinobi.jp/ゲーム(レビュー+情報)/『ico』(イコ)

 

 確認できた最も古いサイトは(1)であった。すでにオリジナルのサイトは存在せず、インターネットアーカイブスで確認できた最古の日付は2004年10月26日である。(1)のサイト内で、筆者の"ダルヨ"さんは、やはりオブラート発言aについて触れている。

 そこで、ICOの発売年である2001年から2005年までという条件をつけ、Googleにて「上田文人」と検索し、ヒットしたwebサイトを確認したが、オブラート発言aは確認できなかった。

 

3.公式ガイドブックが浮上

 上記の調査中、2011年刊行の公式ガイドブックの中に、子宮説に関する発言があることを示唆する情報を3件確認した。1つめは、”NICO”さんのブログ『ワンダと巨像と土と空』2011年9月23日の記事。

 

特に、巻末の制作者インタビューは必見!!

当時の開発状況から、

なぜイコとヨルダが言葉が通じないという設定になったのか?

といったファンにはヨダレものの裏話が満載です!

お城の形が、●●の形だったとは!! ←一番の衝撃・感慨ものでしたw

 

引用元 『ワンダと巨像と土と空』,http://wandatokyozo.blog3.fc2.com/blog-entry-685.html

 

2つ目は、上田氏制作のゲーム「人喰いの大鷲トリコ」の記事について、はてなブックマークに書かれた”kragkn”さんのコメントである。

 

>ICO』の考察に「城」を「⼦宮」になぞらえるものがいくつかあった。これは公式の設定ではな

... / 記憶が正しければ、これはガイドブックに書かれた公式情報だったはず。城からの船での

脱出は出産を意味している

kragkn 2016/11/27 19:24

 

引用元 『kragknのブックマーク』,https://b.hatena.ne.jp/entry/310135411/comment/kragkn

  

そして、決定的な3つ目は、5ちゃんねる『【ICO・ワンダと巨像・人喰いの大鷲トリコ】総合スレ 13』のレス570番である。

 

570 ︓なまえをいれてください︓2012/10/21(⽇) 22:11:45.42 id:fFqbSzx6
なぜかこのスレではレビューが⼀切書かれてなかった
ICOのPS3版攻略本を今更買ってみたら衝撃的事実が︕
インタビューが最新の上⽥、海道、細野の三⼈で撮り直しになってたw
しかも内容が良い︕あと上⽥はホントに⼦宮の形を狙って作ってたのね
⼦宮の形であるって説は根強かったが公式的に書かれたのはこれが初めてな気がする

 

引用元 『5ちゃんねる:【ICO・ワンダと巨像・人喰いの大鷲トリコ】総合スレ 13』,https://toro.5ch.net/test/read.cgi/famicom/1329392095/

 

これらの情報に基づいて実際に書籍を購入し、結論の記載を発見した。

 

4.考察

4-1.オブラート発言aはあったのか。

 今回、オブラート発言aの存在を確認できなかった。しかしながら、発言はおそらくあったとブログ筆者は考える。その理由は、類似した発言を以下のとおり3件確認できたためである。

 

・オブラート発言A

ワンダと巨像」発売の約2か月後、2005年12月の『CONTINUE Vol.25』に掲載されたインタビュー記事「『ICO』『ワンダと巨像』を創った男」内の発言。

上田 『ICO』の女の子の手を引っ張るというコンセプトはエロティックさだったと思うんですけど、そういうものをすごく分厚いオブラートに包んでだしてると思うんですね。だとしたら『ワンダ』は、残酷性をオブラートに包んだものなんじゃないかな、と。

 

引用元 『CONTINUE Vol.25』 太田出版,2005,p.118

 

・オブラート発言B

2011年刊行『ICO公式ガイドブック』の子宮説に関する発言と同じページに、以下の記述がある。

__ヨルダはイコよりも背が高いじゃないですか。先ほど見せていただいた”PS版”でも、ふたりの見た目のバランスがすでに決まっている。上田さんにはそこになにかこだわりがあったのでしょうか?

上田:絵面がいいっていうのもあります。あと、男のほうが背が高くて女の子の方が背が低いっていうのはあんまり意外性がないっていうのもありますよね。それと、ちょっといやらしさが出てしまうっていうのもあったかな。言葉の通じない初めて出会った女の子と冒険するっていうのをそのまま直接的に出してしまうと、あまりにも表現として稚拙っていうか。そこらへんをうまくオブラートに包むための設定として、男の子がまだ男になっていなくて、女の子のほうは女の子か女性かぎりぎりの線という。

引用元 『ICO公式ガイドブック』 エンターブレイン,2011,p.140

 

・オブラート発言C 

 便宜上オブラート発言Cとするが、正しくは発言ではなく、記述である。上記の公式ガイドブックには、「ICO」製作中に上田氏が描いた「上田ノート」が掲載されている。その内の一枚に、オブラートに関する記述がある。

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図2 「上田ノート」の1枚

引用元 『ICO公式ガイドブック』 エンターブレイン,2011,p.123

 このページは、プレーヤーに自ら選択・行動させるための、ゲームデザインについての記載のようである。左上に、「リビドー(本能)」「女性(女の子である)」との記載があり、そこから右に矢印がひかれ、「(理性)」「ロコツさをオブラート ・年上である ・リアル設定である(ビジュアル)(モーション) ・スタイリッシュである(ビジュアル 選曲など)」と記載されている。

 

 図3に、今回確認したオブラート発言を時系列に沿って示す。発言aを直接確認することはできなかったが、同様の趣旨の発言が複数なされていることから、発言aはあったものと考える。

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図3 オブラート発言

4-2.オブラート発言と子宮説に繋がりはあるのか。

 ”ダルヨ”さんは、オブラート発言aをヒントに、子宮説を提唱した。この説は、2011年公式ガイドブックにて、正しい解釈であったことが明らかとなった。素晴らしい洞察力であるとブログ筆者は思う。しかしながら、オブラート発言A、B、Cを丁寧に読むと、この発言から子宮説への直接的な繋がりはないようにも思えた。

 オブラート発言A、B、Cにおいて、エロティックさとは、「女の子の手を引っ張るというコンセプト」「背の高い男の子が、言葉の通じない初めて会った背の低い女の子と冒険すること」「リビドー(本能)」を指している。そして、オブラートに包むために、「女の子の背丈の方を大きくする」「ビジュアル、選曲などをスタイリッシュにする」といった手法が挙げられている。

 もし、オブラート発言と子宮説の繋がりがあるとすれば、エロティックさとは「精子卵子の受精プロセス」を、オブラートに包むとは「精子を男の子に、卵子を女の子に、子宮を舞台となる城で暗示する」ことを意味する。

 ブログ筆者の考えとしては、上田氏がエロティックという言葉で表したものは、「リビドー」という言葉が示すとおり情動的なものであり、受精プロセスのような生物学的なものではない。また、オブラートに包むという表現も、ビジュアル・音楽といったゲームの演出上の話であり、精子を男の子で暗示するというものとは次元が異なっている。したがって、オブラート発言と子宮説に、直接的な繋がりはないと考える。

4-3.ストーリーは受精プロセスを暗示しているのか。

 ストーリーが受精プロセスを暗示しているという説は本当だろうか。確かに、城が子宮を、船での脱出が出産を暗示するならば、城内で起こることは受精プロセスを表すのかもしれない。しかし、今回上田氏の発言に多く当たった感触としては、そこまでの暗示はないのではないか、というのがブログ筆者の考えである。

 というのは、上田氏のゲーム制作の姿勢として、ストーリーや物語についてはそこまで深く作り込まない印象を持ったからである。

 ただ、この点についてはあまり自信もないため、もう少し整理をしていつか書きたいと思う。