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青木栄一『文部科学省』(中公新書) 要約と感想

 

文部科学省の実態についての本。

「教師のバトンプロジェクト」の先生方のツイートがきっかけで読みました。

 

 

1.文部科学省が失敗を繰り返す理由

働きすぎの教員たち、大学入試改革の頓挫、学術研究の弱体化―
失敗はなぜ繰り返されるのか

と帯にある。本書の分析をまとめると次のとおり。

 

文科省「内弁慶の外地蔵」体質であり、これを利用し、他の勢力が文科省所管の分野を「間接統治」しているから。

 

2.内弁慶

 文科省は、教育・学術・科学技術分野を所管している。そして、所管分野の現場である教育委員会や国立大学に強い影響力を持っている。
 なぜか。第一にお金を出しているからである。公立小中学校の先生の給与の1/3を負担しているし、交付金で国立大学の予算の多くを賄っている。
 また、人の面でも影響を及ぼしやすい理由がある。教育委員会の教育長の7割以上は教職や教育行政経験者である。国立大学の教職員は、2004年の国立大学法人化まで文科省の国家公務員であった。
 これらのことから、身内に無理を言いがちである

 

3.外地蔵

文科省は、身内以外、官邸や他省庁には脆弱である。官邸が主導する政策を押し返せない。財務省と交渉して予算を獲得することができない。
 なぜか。教育関係者、大学関係者からの支持に安住してきたため、政治家、財界、国民など身内以外から支持を得ることが苦手なためである。社会に理解を求める姿勢が欠如しており、味方がいない。
 また、戦略性や網羅性のあるデータ分析をしていない。データに基づいた提言や反論ができない。
 さらに、予算が多く削減圧力に晒されやすいのに、中央省庁で最少の人員という点も挙げられる。

 

4.「間接統治」が行われている

 文科省は所管分野には強い姿勢をとるが、外部からの圧力に弱い。官邸や他省庁はこの体質を利用し、頭の文科省を抑えることにより、教育や学術分野に影響力を及ぼす「間接統治」を行っている。
 例えば、頓挫した大学入試改革における民間テストの利用。実施された際に利益を得るのは企業と政治家であり、その政策方針は官邸が打ち出した。文科省はいわば下請けとして制度設計を行った構図にある。
 「間接統治」の問題は、誰も責任をとらないことである。政治家は改革のアピールのみで満足し、制度設計は文科省に下請けとして出す。文科省も内弁慶のため、現場の過度な努力を前提とした制度を設計する。結果、最終的なしわ寄せを現場が被ることになるし、反省の機会がないから失敗が繰り返される。

 

5.ますます「間接統治」が行われやすい環境になっている

 現在ますます「間接統治」が行われやすい環境になっている。
 まず、少子高齢化文科省の予算が減っている。教育委員会や国立大学は財政的に厳しくなっているが、そうなればなるほど文科省への依存が強まり、内弁慶気質が強まる。
 また、所管する分野が他の政策に飲み込まれていったことも「間接統治」を容易にしている。文部省時代の「学術」領域は、文部科学省になり「科学技術」の領域と重なるようになった。さらに「科学技術」に関する政策は、イノベーション政策やその背後の産業政策に飲み込まれた。ここまでくると、経産省や官邸の所管となる。


6.感想

 Twitterの「教師のバトンプロジェクト」を色々見てたので、気になって読んだ。教師の方のツイートを読み、現場へのしわ寄せが半端じゃないと思っていたので、文科省の内弁慶気質は一刻も早く改善すべきだと思う。が、同時に、官邸や他省庁のずる賢さも印象に残った。大学入試改革も、企業に利益を与えるという本音を伏せて、受験生の学力のためにという建付けで文科省にやらせている。そんなずるさのせいで、文科省が苦労をしている部分も沢山あるんじゃないだろうか。

 

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