書きたいことを書きたいだけ

書きたいことを書きたいだけ書くブログ

コントラストにクラクラする 安達正勝『物語 フランス革命』感想

フランス革命の手触り感」を得られる本。

革命の進展が分かりやすいだけでなく、当事者たちの人となりが分かるエピソードが豊富で、まさに物語として読める。ルイ16世ロベスピエールといった歴史上の人物だけでなく、錠前師ガマンなどあまり知られていない人の人生も生き生きと語られており、あたりまえだけど、本当にあったことなんだなと実感しながら読んだ。

***

フランス革命について、著者は次のように書く。

 この時期は、人々が一途いちずな理想に駆り立てられていたという意味では夢のような時代であったが、多くの血が流れたという意味では暗い時代でもあった。非常に残念なことだが、激動の時代に流血はつきもの、というのが歴史の常のようだ。

安達正勝著 『物語 フランス革命』 中央公論新社,2008,p.3

率直に言って「こりゃ ”非常に残念なこと” てレベルじゃねえぞ…」と思った。手元の世界史資料集に、フランス革命の風刺画がのっている。

ロベスピエールの政府”(作者不詳)
出典:『詳説世界史図録』 第3版,山川出版社,2020,p.167

タイトルは”ロベスピエールの政府”。作者不詳。ギロチンで切り落とされた、夥しい首。最期は処刑執行人サンソンまでもが、自らを自らで処刑している。

1973年3月、革命の過激化に伴い「革命裁判所」が設置される。これがヤバい。

 革命裁判所は「あらゆる反革命的企て、自由、平等、統一、共和国の不可分性、国家の内的および外的安全を脅かすあらゆる行為、王政を復活させようとするあらゆる陰謀」に関わる事件を管轄する特別法廷で、控訴・上告はいっさいなく、ここで下された判決は、即、確定の最終判決であった。

 革命防衛のために設置された革命裁判所が、本来の使命を逸脱し、政敵排除にも利用されるようになるのである。

同書 p.221

最初のうち、月間の処刑者数は数十人程度だったが、1974年春になると数百人規模に増加する。そして末期、1974年6月に裁判を簡素化する法律が制定されて以降、1か月半で約1,300人という凄まじい件数になる。

 ギロチンに対する人々の感覚が麻痺まひしていた。人々は「聖なるギロチン」と呼び、革命にとって障害になるとみなされた者たちをギロチンで処刑することが正義にかなう、と思っていた。「死への狂騒」とでも呼ぶべき、尋常ならざる感覚に取り憑かれていた。夢の中にいるような感じ、目を覚まして初めて自分たちがいかに異常な状態に陥っていたかを悟るといった感じであったろう。そのときには異常さに気づかない。

同書 p.258,259

***

動揺させられるのが、こんなおぞましい処刑の嵐が、全人類の「自由と平等」という崇高な理想のために行われていることだ。その強烈なコントラストに眩暈がする。

理想が崇高で、完全無欠であればあるほど、現実とのギャップが露わになる。そして、理想が完全なのだから、その実現のためにはどんな犠牲も許される、という論理なのだろう。

あと、たぶん処刑しすぎて、ここで辞めたらこれまでの犠牲が無駄になってしまうという、サンクコスト的な考えもあったんじゃないかな。人の死なんて、これ以上ないほどサンクしたコストだから、辞めるに辞められなくなったんだとも思う。

***

フランス革命が人類社会にもたらした、「自由と平等」「国民主権」といった価値観は、この上なく貴重なものだ。けど、これだけの死がその代償として相応しいのか、正直よく分からない。

大事にしよう。

 

*余談

依然読んだ、伊坂幸太郎の小説『火星に住むつもりかい?』を思い出した。感想書いています。

mura-sou.hatenablog

 

mura-sou.hatenablog.com