書きたいことを書きたいだけ

書きたいことを書きたいだけ書くブログ

きくちさき『しろとくろ』 書評

 

 草花や小さな虫たちであふれかえる野原が舞台。そこに1匹の白いネコが住んでいる。「なんで くさって たくさん あるの」「なんで はなって きれいなの」と、好奇心でいっぱいだ。ある時、ネコは黒い飼い犬と出会う。友だちとなり仲よく遊んだ後、夕暮れにイヌは帰っていく。残されたネコは、「なんで さびしいの」「なんで なんで あいたいの」と自分の気持ちに戸惑う。最後のページで2匹は再会し、「にゃあ」と互いに元気に駆け寄り、絵本は終わる。

 

 身の回りに不思議がいっぱいで、いつも「なんで なんで」と思っている(そして時に大人を困らせてしまう)子供たちは、ごく自然にネコの気持ちに共感するだろう。ネコと一緒に、友だちができた嬉しさ、別れの悲しさを味わう。最後は再会し、安心して本を閉じることができる。不思議だらけの世界で、一番不思議なのは、自分のこころなのかもと思うかもしれない。

 

 絵は色鮮やかで力強く、登場する生き物たちの生命力が画面いっぱいに広がる。ネコとイヌはもちろんのこと、野原に住む蝶やバッタ、カエル、そして草花が生き生きと描かれている。このような絵と一体となり、「なんで」が繰り返されるシンプルな文章が、ネコの気持ちをストレートに伝える。

 

 作者のきくちさきは、1975年生まれの絵本作家。2012年、『しろねこくろねこ』(学研プラス)でデビューし、2013年には同作がブラティスラヴァ世界絵本原画展にて金のりんご賞を受賞した。2020年、本作『しろとくろ』が第67産経児童出版文化賞フジテレビ賞を受賞。また、2019年秋には、武蔵野市立吉祥寺美術館の主宰による「きくちさき絵本展 しろとくろ」が開催されている。

 

mura-sou.hatenablog.com