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飯尾潤『日本の統治構造』 内容まとめ(と少し感想)

2007年刊行の本。分かったところを図にして要約しました。

1.議院内閣制の理念

日本は議院内閣制を採用している。議院内閣制は、行政権(内閣)の成立根拠を議会(国会)の信任に置く制度、より具体的には議会の多数派を形成した政党が行政権を握る制度である。
議院内閣制で最も重要なことは、一貫した権限委任の連鎖が行われていることである。すなわち、国民が選挙により国会の与党を選び、与党は首相を指名し、首相は大臣を任命し、大臣は各省庁の官僚をして自身を補佐させる。これにより、国民の望む政策が行われることになる。

図1 権限委任の連鎖

2.連鎖のほころび

2.1 与党 → 首相 段階

日本の議員内閣制の実態として、この連鎖にいくつものほころびが生じている。
まず、ほぼ政権交代が望めない自民党一強体制が続いたため、選挙で首相を選ぶという意識が醸成されていない。首相は自民党内の総裁選で選ばれると認識されている。(図2)

図2 与党 → 首相 のほころび

2.2 首相 → 大臣 段階

首相による大臣の任命、この連鎖にもほころびが見られる。
大臣の任命は、自民党内の各派閥が候補者のリストを挙げ、そこから首相が選ぶという慣行があった。このため各大臣は首相のために働くというより、派閥のために働くという動機が生まれてしまう。

また内閣法にもこの連鎖を弱める原因がある。憲法上では首相の強い権限が予定されているが、内閣法はその権限を制限するような記載となっている。

図3 首相 →  大臣 のほころび

2.3 大臣 → 官僚 段階

大臣が官僚に自身を補佐させるという、連鎖の最後の段階も弱い。なぜなら、各派閥への配慮によって、不適任な大臣の任命や任期の短期化が起こり、大臣が官僚を使いこなすことを困難にさせているからである。

図4 大臣 →  官僚 のほころび

3.日本の統治機構の実態

3.1 官僚内閣制と省庁代表制

以上のように日本の統治機構は議院内閣制の理念から乖離している。では実態はどのようになっているのか。

まず、大臣 → 省庁官僚 の矢印が逆転している。すなわち、大臣が官僚をコントロールするのではなく、その逆に各省庁の官僚が大臣をコントロールし、大臣が省庁の代理人となっている。この状況を「官僚内閣制」と呼ぶ。

また「省庁代表制」と呼ばれる事態も生じている。各省庁の官僚は、それぞれが所轄する分野の社会団体と密接な関係を持っている。官僚はそれら関連団体の利益の代弁者として政策を立案する。また、省庁は地方自治体に行政を行わせているが、このことは地方自治体の意向に省庁が左右される状況を生み出している。

日本の官僚制は社会的な利益の代弁者という側面をもっており、この状況を「省庁代表制」と呼ぶ。

図5 官僚内閣制と省庁代表制

3.2 政府・与党二元体制

議院内閣制において、本来与党と内閣は一体である。しかし、日本では与党 → 首相の権限委任の概念が弱いため、「政府・与党二元体制」とでも呼ぶべき仕組みが成立している。

この仕組みでは自民党の党本部が重要な役割を果たす。官僚が作った政策に関する法案は、国会での審議前に自民党の党本部で議論され、修正を伴いながら合意形成が図られている。これを合議という。(図6)

与党自民党は、このルートにより官僚の統制を行う。また官僚にとってもこの仕組みは必要である。立案した政策を実施するためには、国会による立法が必要だからである。

図6 自民党党本部と官僚のつながり

4. 問題点と改善策

4.1 問題点

日本の統治機構は、官僚内閣制・省庁代表制といった仕組みにより疑似的な議院内閣制として機能してきた。この仕組みは戦後長期間にわたりうまく機能してきたが、1990年代以降、機能不全が明らかになってきた。問題点は3つある。

  1. 「権力核」の不在
    政策を統合化し、社会をどこに導くのかを明確にして、トレード・オフのある政策のうち一方を選ぶ決断を下させる「権力核」が存在しない。
  2. 権力核の民主的統制が弱い
    選挙による政権選択の可能性が低いため、政権が明確に有権者による負託を受ける機会がない。
  3. 政策の首尾一貫性の確保が難しい
    政策が政府内の各所で検討されており、政府全体として何を目指しているのかが不明確となる。

このような問題点により、大きな改革が不可能となっている。

4.2 改善策

本来の議院内閣制は権力核が明確な一元代表制である。よって、議院内閣制の本来の特性を生かすことで、前述の問題点を改善することができる。その場合鍵となるのは、「政権選択選挙の実現」と「内閣総理大臣(首相)の強化」である。

まず選挙制度改革により、選挙における政権交代の可能性を作り出す。その上で、各政党はあらかじめ首相候補を提示し、政権の方針をマニフェストとして掲げて選挙戦を戦う。これにより選挙において政党・首相候補・政策の三点セットを有権者が選ぶことが出来るようになる。

選挙で三点セットが選ばれることは、同時に首相の地位を向上させる。首相を補佐する機関も強化される。政府と与党も、政府を中心に一元化される。すなわち、図1で示した体制に立ち返ることができる。

5. ちょっと感想

政治の仕組みをほとんど知らないので勉強になった。この本が刊行されたのが2007年だから、その後15年たっている。「政権選択選挙の実現」は2009年に一度達成され、民主党政権となった。しかし2012年に自民党に戻り、その後は気配すらない。政権交代の可能性は、むしろ当時より低くなっているように思う。一方「内閣総理大臣(首相)の強化」は着々と進んでいる。こちらだけが進むのは、これまでの疑似的議院内閣制よりたちが悪いのではないかと思う。

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