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書評『モーツァルト:音楽家の伝記 はじめに読む1冊』萩谷由喜子著 

 


 モーツァルトの波乱に満ちた人生をおった伝記。神童として喝采を浴びた幼少期、就職先を求めるも失敗し、不本意ながら故郷の宮廷に務めた20代前半、君主と喧嘩別れして始めた独立生活での成功から、社会変革のあおりをうけた経済的困窮、そして多忙により没するまで、35年の生涯を描く。


 多くの資料、とりわけ手紙類に基づき、偉大な音楽家としてだけではなく、欠点も含めた人間としてのモーツァルトが捉えられている。生活力の無さ、計画性の無さは、あれほどの音楽的才能がありながら、若すぎる死を招いた。だが、そんなことを考えなかったからこそ、あれほど美しくかぐわしい音楽芸術の花がさいたのだと著者は述べている。


 著者が音楽評論家だけあり、楽曲の評論は簡潔ながら印象深い。例えば、<クラヴィ―ア協奏曲第27番>は、「澄んだ蒼穹(青い空)を思わせる純な美しさに満たされた曲」と述べられており、自然と聞いてみたくなるだろう。また、その楽曲が、モーツァルトの人生のどのような局面で書かれたものかも知れて、より理解を深めることができる。あるときは母が亡くなった悲しみの中で、またあるときは順風満帆なウィーンでの売れっ子時代に書かれる。


 本書では、旅が一つのキーワードになっている。幼いころのモーツァルトは、父に連れられて各国に演奏旅行へ出た。旅先では、有名な音楽家や、楽器作りの名人に出会う。同じような境遇の少年と友情を結ぶ。病気になったり、オペラの上演を妨害されたりもする。旅での様々な経験を通したモーツァルトの成長は、本書の読みどころである。


 「10歳から読める」と本書の帯にあるが、使用される語彙は小学校高学年にとっては少し難しく、読書に慣れた児童向けと言える。ただ、漢字にはルビが付され、理解の助けとなる地図や年表も掲載されており、じっくり味わえる本だ。更に特徴として、印刷されたQRコードを読み取れば、楽曲をスマートフォンで試聴できる仕組みもついている。


 著者の萩谷由喜子は音楽評論家。『音楽の友』等の音楽雑誌の公演評欄を執筆するほか、NHKのラジオ番組にも出演。主な著書に『五線譜の薔薇』(ショパン)などがある。

 

 

映画「アマデウス」の感想も書いてます。

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