心に残った一節。
ああ、お母さまのように、人と争わず、憎まずうらまず、美しく悲しく生涯を終る事の出来る人は、もうお母さまが最後で、これからの世の中には存在し得ないのではなかろうか。死んで行く人は美しい。生きるという事。生き残るという事。それは、たいへん醜くて、血の匂いのする、きたならしい事のような気もする。
引用:太宰治 『斜陽』 新潮社 p.149
同感。生きるということは、ままならない。まじで。
美しく死ぬか、醜く生きるか、二者択一しか無いように思われる。
お母さまは美しく死んだ。
かず子と直治は、二人とも生きようとした。
だが、最終的にかず子だけが生き残ることを選択し、直治は死を選んだ。
この違いは、強さ弱さでなく、端的にかず子が女で、直治が男だったからではないかと思った。
すなわち、子どもを産めるかどうか。
お母さま、かず子、直治。三人の運命は小説内で決した。
残る一人、上原がどうなるかは記されていない。
太宰が小説の外で、身をもって記したのだろうか。